金色の朝陽を浴びて、赤トンボが水田の上を平行に飛んでいます。このトンボはアキアカネか、ショウジョウトンボか。関西の9月のこの時期のトンボ、誰かご存知ですか?
この9月に、一人のお子さんが学校に復帰しました。一年間不登校気味。今年の4月からは完全に不登校でした。
本人の特性もありますが、担任の先生の対応が厳しすぎたようで、とても繊細で頑張りやさんにとっては乗り越えられない壁になったようでした。
一度人間不信になってしまったらなかなかに難しくなってしまいます。本人の頑張りだけでは克服できないからです。学校が、安全なところであるともう一度認識してもらわなければなりません。
縁あって、私のところに来てくれたこのお子さんと、まずは愛着形成から始め、この場所は安全で、自分の居場所なんだと思ってもらえるようにしました。
学校への不信感から、「学校の宿題」と、「学校」と名のつく物、「学校」と耳にすることさえ拒否していたこのお子さん。その様子から、心の傷の深さが伺えます。
それでも4月の始業式には、「今年の担任の先生はどんな人かな?」と楽しみにしていた様子でした。
本当は、朝、新しい先生にお迎えに来てもらいたい、自分から素直にはできないけれど、上手に連れ出してくれないかな?そんな気持ちが見え隠れしていました。
でも、先生の方にも焦りや戸惑いがあって、段々すれ違っていったようでした。「きっと、先生たちは僕のことなんかどうだっていいんだ」そう呟く彼は寂しそうでした。
学校にはこちらから働きかけ、彼には心の傷の修復や、長く籠っていたことで獲得が送れている集団行動への適応力や社会性、ルールを守るということなどの行動トレーニングを行っていきました。
本当は友だちと遊ぶことを強く欲しているけれど、上手く距離感がつかめないので、遊びを通して友だちとのコミュニケーションの取り方も学んでいってもらいました。
同時に、止まっていた学習についても雑談しながらの落書きを装いながら進め、そのうち、大学などの話題にも触れて将来のビジョンも少しずつ手渡していきました。
やがて、プリントに取り組めるようになり、学校から出された課題への抵抗も少なくなっていきました。
夏の間は捕まえたカブトムシやクワガタを一緒に観察。自主学習にも繋げました。
他の友だちが、学校が終わってからやってくるのを毎回見ている彼は、徐々に学校へ戻る日を意識するようになります。こうなってくると、周りの大人の方がタイミングを見誤ってはいけません。
学校の先生方も、ドクターも、みんなまだまだ無理だろうと思っていましたが、二学期が始まるタイミングに間に合うようにと、諦めず粘り強く働きかけて、彼が自分から行きたくなったらいつでも行ける体制ができかけた頃・・・、本当に彼は学校に登校することが出来たのです。
大人が見落としてしまいがちな、子どもたちの言葉の裏に隠れた本当の気持ち。些細な仕草の意味を、しっかり受け止めること。けしてタイミングを逃さないこと。生活のリズムや問題点の改善、傷ついた心のケア、集団に戻った時に困らないような力を育てることなど、一つ一つステップを踏むことを忘れないで取りくむことはとても大切です。
そして、できることなら不登校になってから早い方がいい。
二学期の始業式から毎日がんばっている彼は、きっと疲れているだろうけど、なんとかレールに乗って登校を続けてくれますように。
学校の先生方が、彼の特性を理解して、上手く導いてくれますように。
秋の空を飛ぶ、赤トンボを眺めながら、急ピッチで復活していった彼に想いを馳せました。