遊んでほしいな。
優しくしてほしいな。
こっちむいて。
僕のことに気づいて。
僕の気持ち わかってくれる?
ほら、こっちだよ。
怖くないよ。
一緒に遊ぼう。
大丈夫だよ。
ほら、ボールだよ。
手を広げて。
ボールが来たら、とるんだよ。
なに?
やだよ。
何が当たるの?
何してるの?
わからない。
あっちいって。
ほらほら、ボールがトンっとあたったよ。
何?やだ。やめてよ。
ほらほら、またボールがきたよ。トンっ。
やめてよ!
またあの人きた。いつもイヤなことしてくる。気をつけて見ておかなくちゃ。ドキドキ。
ほら!やっぱりきた!今度は足にあててくる!もう!
○○くん、サッカーだよ。足に当ててみよう。あ、あっちに蹴られちゃった。もう一度♪
なんなん?今キラキラするもの見てるのに。足に当ててくる!今度あの丸いの来たら、バシッとけってやる。あ、きた!バシッ!
○○くん、キックできたねぇ。上手~!!それでいいんだよ。ありがとう♪
え?なんか頭さわられて、きもちのいい感じの声がきこえる。めのまえのひと、わらってるなぁ。さっきのバシッがよかったのかな?なんだかいいきもち。
お~い!もう一回いくよ~!それっ。
もう一回さっきみたいにけってみよう。またきもちのいいこえ きけるかな?バシッ。
上手、上手!そうだよ。それでいいんだよ。足にあたったら、こっちに返すんだよ♪
やっぱりだ!バシッてしたら、このきもちいいこえがきける。あたまもさわられていいかんじ。これってほめられてんの?
あのひとがくると、なんだかいいことがおこる。なにか、おしえてくれてるみたい。
はい!○○くん、ピョン、ピョン、ジャンプしてみよう。
なんだろう?わからないけど、なにかおしえてくれてるみたい。やってみよう。こう?
そうそう♪できてるよ~。イェイ!
またきもちのいいことあったなぁ。これでいいんだ♪
またつぎにきたときも、いいことあるかな♪ほんとうは、みんなとおなじことしたい ぼくのきもち、わかってくれるかも。
発語がまだなく、知的な部分に重い障がいを持つ自閉症のお子さんたちは、三つ組の障がいと言われる①社会性 ②コミュニケーション ③想像力に、重い困難を抱えています。
言葉が分からないので、私たちの言葉がけが分からないだけでなく、自分の思考というものも言葉ではしていません。物の名前も、動作を表す言葉も、自分や他者の気持ちを表す言葉も分かりません。自分がしたいことを相手に示すことも難しいです。
また、相手の動きを模倣する力も弱いです。他者への関心がないというのは、ミラー・ニューロンが上手く作動していない状態です。
ミラー・ニューロンとは、他者が行動するのを見ている時にも、自分も行動しているかのように鏡写しに活動する神経細胞で、これは相手がしていることの意味や意図を理解するといったことにも関係があると言われています。
この、ミラー・ニューロンが上手く作動していないなら、作動するようにすればいい、というのが私の持論です。ミラー・ニューロンが作動するような刺激を、長期間には及びますが上手に与えていくことが必要です。
他者に関心がないお子さんに関心を持ってもらうためには、初めはちょっぴり気になる刺激を与えることから始めます。
上の会話のような文章は、そんな自閉症のお子さんに私たちが働きかけているところです。キャッチボールやサッカーというものは難易度の高いものですが、体にポンっとボールを当てることで、体が反射的にキャッチしようと腕が自然と動いたり、足に何かがあたって反射的に避けるという行動を引き出すということの繰り返しを行うことでミラー・ニューロンを作ろうとしています。
私たちも、相手に関心を持つ、という時は、必ずしも「すき」という場合だけではありません。「イヤ」「きらい」な時にも、ある意味相手に注目し、関心を寄せていることになります。
他者への関心が低いお子さんに、こちらに関心を向けてもらうに、ただただ気持ちの良い関わりだけでは不十分です。それは、ただ気持ちがいい相手なだけで、その人が何か行動を起こせば、そこへの関心や行動の意味、意図といったことは、たちまち分からなくなり、そっぽを向いてしまう、ということになるからです。
だとすれば、イヤ、嫌い、であっても、ある意味関心を持ってもらうことには違いがないので、初めはこちらの行動の意味、意図が分からず、イヤ、嫌いな気持ちを持たれ、邪険にされても根気強く関わりを続け、そこから、徐々に関心を強くしてもらい、何かまた仕掛けてくるんじゃないか?と、これもある意味の〈期待〉をしてもらうのです。すると、
こちらの行動に対して、反応しだす。
こちらの行動の意味を感じだす。
こちらの行動の意図を掴みだす。
といった順序で、発達が上がっていきます。
その過程で必ず良い関わり、気持ちがいいと感じて貰えること、誉めてあげること、などを忘れず入れていることも重要です。意味や意図に気づきだした時、今までイヤだなと思っていた相手が気になり、もっと気持ちの良いか関わりをしてくれるかも?という期待に変わります。そこまでくれば、あとは大丈夫。こちらの誘いにのって、促される行動に身を預けてくれだします。
協力体制の始まりです。学びの姿勢ができるのです。
次第にミラー・ニューロンが形成され、行動を模倣する力がついていきます。
何年もかかりますが、劇的変化な成長を見ることができます。
言葉を持っていない、重度の自閉症のお子さんたちも、私たちがミラー・ニューロンを使って相手の気持ちをキャッチし、その行動の意味、意図を理解する努力を惜しまなければ、やがて鏡写しのように変化を始めます。心を砕き、関わり続けることの力です。