きらめき 綴り

療育アドバイザーとして活動しています。日々の心の煌めきを大切にしています。

至福の一時。私と彼との最後のお散歩。

また、少し寒くなりましたが、春めいた明るい陽射しのお昼時。

私と彼は、ちょっとしたお散歩に出ることにしました。

行き先は、郵便局とコンビニ。

手紙に貼る切手を買ってポストに投函する為に。そして、私のお昼ご飯と、彼のおやつを買う為に。

 

彼と私は、彼が小学1年生の時に出逢い、私は介助員として入学式に付き添ってから今年で12年の付き合いになります。この春、高等部を卒業し、生活介護施設でお仕事をして、工賃をもらう生活をスタートさせます。

そんな彼と過ごせる日も数えるほどになりました。制度上、私のところも高校3年生まで、となっているからです。

私が、そんな彼にしてあげられることは、なんだろう?と考えていると、「信号を自分で判断して渡ることができるようになる」という計画がまだ残っていたことに気づきました。散々信号ゲームと称して、室内で練習してきましたが、このコロナ禍で外出もなくなり、仕上げがまだできていなかったのです。

それなら、郵便局とコンビニは絶好のチャンス。

公園だと勘違いしないように、行き先の画像も見せながら説明したところ、なんだか、よく分かってくれたみたいで「うんうん」というように頷き、颯爽と上着を着て用意してくれました。

いざ、出発♪

私は彼の半歩後ろを歩きます。

彼がどのくらい行き先を分かっているか、信号機を見てどれくらい判断できるか、を見るためです。

さあ、信号です。

何も言わずにいると、青になって渡り出しました。周りの人の動きに合わせているのかな?

あれは何色?と聞きました。

「あか」(色の認識がまだ怪しい)

いやいや、あれは青でしょう。青は?

「渡る」

お!?正解。

真っ直ぐ進むと郵便局が見えてきました。さあ、どうかな?

おや、入り口に入る為のスロープを上がります。(ここやろ?)というように指を差しています。

なんだ、ちゃんと分かっていたんだ。

ここでは、お金を渡して切手代を払ってもらいました。

 

さあ、次はコンビニだよ。途中で信号があって、渡るか真っ直ぐか行き方は2通りです。渡る方を選んだようです。

さあ、信号はというと、今は赤です。

自然と足を止めました。色は?

「あか」

おお、正解。赤は?

「とまる」

大正解。すでに止まっているけど、きちんと言葉でも言えました。そして、青になると自然と歩き出しました。ちゃんと、右、左、右を見てね。彼は視野が広く、動体視力も素晴らしく良いけども。やっぱり危ないからね。

 

あとはコンビニまでは真っ直ぐです。次はコンビニと思うと、彼はさっきより足早になりました。前から通行人が来るので、私は彼の真後ろに入ります。

おや?と彼が私を探しました。若干頭を左右に振って、視界の端に私の一部が入ったのでしょう。続けて歩いています。歩きながら、時々私がついてきているか、時々同じように確認します。なんだか私が付き添われているみたいです。

コンビニに入ると真っ先にお弁当コーナーに行って、カルボナーラを私に突き出しました。

え?あなたはおやつを買うんだよ?と説明し、おやつコーナーへ。コーナーへ着くや否や、商品を真っ直ぐ見ずにDARSのホワイトチョコを掴み、私に差し出しました。

彼は小学生の頃から、即決の人なのです。無駄がありません。

今度は私のお弁当を買うね。と、彼が私より先にコーナーへ行き、また瞬間的に、ピリ辛ラーメンサラダを突き出しました。

「ほら!」と言うように。

え?もうちょっと選びたいんだけど。と彼を見ます。

でも、強い視線で私を見て、もう一度ピリ辛ラーメンサラダを私にぐいっと押し付けます。

「お前はこれ」と言われているようです。

まさか、即決でお昼ご飯を決められるとは思いませんでしたが、まあ、いいか。ピリ辛ラーメンサラダ好きだし(笑)。

今回も支払いは彼にしてもらいました。コンビニは今や機械です。彼にも経験してもらった方がいいですしね。と思っていたら、小銭は教えてもいないのに、小銭のところへ。お札も教えてないのにお札のところへ。上手な手付きで入れました。と、思ったら、出てきたレシートを瞬時に取ってまたもや私に突きつけます。

なんだかなぁ。完全に私が付き添われている感(笑) まるで、夫か彼氏のような態度です。

店員さんに丁寧に「ありがと」と挨拶をして店を出ました。

ここの店員さんは、みんなとても態度が良くて、教育が行き届いています。彼に対してにこやかな笑顔で応対してくれました。

 

過去に、彼をあるショッピングモールに連れていった時、同じ店舗の違う売り場の2ヶ所で、ひどい応対をされたことがありました。レジに並んでいて、次が彼の番、という時に、急にレジの人が逃げていったり、彼が差し出したお金を汚いもののように摘まんだり。とても心が痛みました。付き添いが私だったから良かったけれど、もしこれがお母さんだったら?

そう思うと、いたたまれず、後でそのお店に電話したことがありました。

彼はとても清潔な人で、外見も男前だし、中身も素晴らしい人格の持ち主です。お店の中で大きい声を出したりしないで、両手は前できちんと組んで上品です。それでもこんな対応をされるんです。

それに比べて、今回の様に、逆に、一目見て理解してくださった店員さん。より丁寧な対応をしてくださったことに感謝でした。

 

今では優に私の身長を越え、180センチ近くある彼は、私と付かず離れずの絶妙な距離感で歩きます。手は繋がなくても大丈夫。見えない磁石があるかのような、阿吽の関係性だからです。そうやって歩けるように、小さいころから練習しました。それは久しぶりであっても健在でした。

18歳になった彼は、背を伸ばして堂々と、前を見据えて歩いています。その、立派になった姿に、この12年の歳月を感じ、感無量になりました。

きっと、彼は大丈夫。

私の元を去っても、次の場所で、新しく出逢った人々と、上手くやっていけるだろう。

 

そう確信しました。

 

そうそう。信号を自分で判断して渡ることができるか?

「ほぼ、達成です。」