素数物語の前半を更新した次の日のこと。
父から電話がかかってきました。
どうも、母の様子がおかしいんだ、と言うのです。
前の日からご飯を食べなくなって、話しかけても反応が薄い、熱はないし、特別変わったこともなかったのに•••と、困惑していました。
母は、事故やら、ケガの絶えない人で、長く入院生活を送ったことで、見当識が弱くなり、軽い認知症の状態になっていました。
父は日頃から、「命ある限り、自分がみる」と言って、毎日3食の食事、投薬管理、ヘルパーさんや訪問介護、そしてデイサービスや通院に至るまで、甲斐甲斐しく母のことをみてくれていました。
本来几帳面な性格の父は、全てきっちり管理していて、私も真似できないなと、頭が下がる思いでした。
その父が、母の状態を細かに観察して、「おかしい」というのですから、きっとそうなのでしょう。
父は、かかりつけの医院にも行って、予約を取ろうとしたけれど、ドクターがその日手術が入っているから、という理由で、母の診察は明日になったらしく、明日の結果が出たら、また連絡をくれると言って電話が切れました。
その日、私は息子との用事があり、出かける予定でした。
でも、父の説明を何度も反芻するうちに、診察は本当に明日でいいのだろうか?•••という疑問が湧き出しました。
今朝はヘルパーさんも、デイの管理者さんも様子を見に来て下さっていたらしく、その時は「ありがとう」とお礼も言えていたようだから、大丈夫なのかもしれない•••。
だけど、高齢で悪化がゆっくりなだけで、この後、もっと悪化が進むかもしれないし•••。明日では遅いかもしれない•••。
そう自問自答を繰り返しました。
私は、こういう時の為に、仕事をセーブしたのだ•••、明日は仕事だけれど、今日は休みだ。今日、母の元へ行っておくべきでは?という想いも湧いてきます。
今はまだ息子も調子が完全ではなくて、用事もいつでも良いわけではないので迷いましたが、思い切って、息子も連れて母の元へ行くことに決めました。
父はきっと、明日でいいというだろうから、連絡は出発してからにしました。その方が、断わりにくいからです。
息子も、明日の結果を聞いてからでいいのでは?と言いましたが、とにかく「今」行く理由がある、とだけ伝えて、高速で1時間半の道のりを急ぎました。
母は、静かに車椅子に座っていました。2週間前に会った時は、夫の髪型の変化にも気づき、冗談も言って笑っていたのに、その日は私からの呼びかけにも応答できません。時折、目をパチパチして意思表示するだけです。
手は膝の上に置いたまま、冷たく強張っています。
しばらく、父と談笑しながらも、母の様子を注意深く見ていました。
父が明日の診察について話しだしたので、「本当に明日で良いのだろうか?」と、切り出してみました。
ついで、私が一番心配をしていたことを言いかけた時、同時に息子も「脳梗塞では」と口にして、お互い顔を見合わせました。一言もそれについて話してはいなかったのに、母の様子を見て、息子もそれを心配したのでしょう。
一度、相談という形で、119にかけてみては?と父に話すと、急にスイッチが入ったように動き出し、電話をかけていました。
電話の向こうの救急隊員さんは、様子を聞いて「脳梗塞の可能性があるので、すぐに行きますね」と言ってくれました。それからそのまま2,3の質問が続き、それに答えているうちに、救急車のサイレンが聞こえてきました。
こんなに早く到着するの⁉と、驚いているとあっと言う間に3人の隊員さんが入って来られ、テキパキと情報収集されました。
丁度その頃から母は熱が出だしたようで、隊員さんは色々な可能性を探りながら、私たちと丁寧にやり取りし、どういう方法を選ぶか相談して下さいました。
私は、救急車を実際に呼んだのは初めてだったので、こんな風に私たちにも気を配りながら親切にやり取りしてくれることや、尚且つ鋭いしっかりした目で母の状態を観察しているその様子に、すっかり感心してしまいました。
隊員さんは、長い時間をかけて、受け入れ先の病院を探して下さり、母は救急搬送されていきました。
いくつも検査をした結果、母は脳梗塞は起こしておらず、尿路感染を起こしていたことが分かりました。
尿路感染も、症状が進むと腎盂炎を起こしたり、炎症が肺にまで達すると聞いたことがあります。それにより、後遺症が残ることもあるそうです。次の日まで待っていたら、もっと症状は悪くなっていたことでしょう。危ないところでした。
幸い、抗生剤による治療で、母の容態は、少しずつ改善に向かっているようです。
今回のことで、私はたくさん大切なことを学びました。
まず仕事はセーブしていて本当に良かったと思いました。父は気丈にしていますが、急変した時などは、やっぱり心細かっただろうと思います。
この先、今回のようなことも増えるでしょうから、家族で相談し協力しながら分担していくことになるでしょう。
そして、息子が、母の様子を観察していて脳梗塞のリスクが真っ先に頭に浮かび、口に出来たことは収穫でした。まずはリスクの高いことから考えて、そこから消去法で検討する力は、この先仕事をする上で必要な力で、彼がそれを持っているということが分かったからです。
そして、初めて救急車を呼び、こういう風になるんだ、と学べたことは大変貴重な体験でした。
確信がなくても、連絡することで、親身に話を聞き、状況判断をしてくれます。
「何かおかしい」と感じたら、また明日に、と後回しに考えず、即行動する大変さも学びました。
皆さんも、もし、「何かおかしい」と感じる場面に遭遇したら、勇気を出して行動に移してみてくださいね。
大事な家族を守る為に。
後で後悔しない為に。