先々週の土日に、6年来のお付き合いのあるお子さんのお泊まり療育を行いました。
前々から、是非にとお母さんからご依頼をいただいていて、やっと日程の調整ができたのです。
今回はなんと本人の、
「きらめきのところで、嫌いな食べ物に挑戦する!!!」
という強い要望があってのことでした。
このお子さんと初めて出逢った時は、なんて可愛いお子さんなのかと思ったものですが、ところが、それは仮の姿?。本当は・・・小さな大怪獣だったのです(笑)
自閉症で、発語はあるものの、自分の状況や気持ちを言おうとすると上手くいかずに、お気に入りのキャラクターやお店の名前に変換されてしまう、上手く思いを伝えられずに癇癪を起こす、そしてその小さな体からは想像できないような瞬発力で、気に入った人にキックを繰り出してしまう・・・といった困難を持っていました。
偏食も強く、その頃は外では一切お母さんが作ったものは食べられず、コンビニなどで買った物しか口にしない、野菜や果物は家でも食べないという強者でした。
お母さんから、小学校に入学して給食が始まる前に、練習としてなんとかお弁当が食べられるようになって欲しい、という願いを受けて、小1の春のご利用開始と同時に、思うように動く体づくりのための運動や行動抑制のトレーニング、行動パターンの組み替え、実戦的SST、偏食指導を通して、今では他害など全くない、思うように気持ちを言葉で伝え、大縄も何とか飛べて、集団適応している、愛されキャラへと変身(成長)されました。
当初の偏食指導は、
①初めはコンビニのおにぎりとチキン。まずは私たちと食べることに慣れるところから。野菜はありません。
②慣れてきた頃(これ、大事です。あまり長くするとパターンが定着してしまうからです)、お母さん手作りのお弁当へと切り替えです。まずは小さく丸めたコロコロおにぎりを3つお願いしました。そして大好きな唐揚げ。「コロコロおにぎりを食べることが出来たら、唐揚げね」と順番を決めて、淡々と根気よく繰り返し伝え続けました。
ASDのお子さんは、とにかく初めが肝心で、上手に駆け引きはしながらも、ルールを提示し続ければ、最初は苦戦しても次第に体が覚えてくれて、ルーティンになっていってくれるという特徴があります。
半年ほどはかかったでしょうか。時にはおにぎりを握り潰した手で服を触られてしまったり、1つに括った髪を握られて、ポニーテールが水戸納豆みたいになったり、教室中がご飯まみれになったりもしました。
③コロコロおにぎりが食べられるようになったら、次は野菜です。しかも緑の。小さく小さく切ったブロッコリーを一口分から量を次第に増やしました。
④ブロッコリが何とか食べられるようになった頃、次はほうれん草に挑戦し、これも次第に食べられるようになりました。と言っても少量ですよ。よくある失敗は、量の調節です。初めは極々少量、ほんのひとつまみほどでなくてはいけません。
⑤いくつか緑の野菜をクリアしたら、あとは副菜の種類を少し増やしてもらいました。
⑥後はおやつの時間も使い、6年間でイチゴや干し柿、ぶどうなどの果物も食べられるようになりました。
その甲斐あって、学校の給食もスムーズで、全部食べられるようになりました。
「好き?」って聞いたら、絶対に「好き」って言わない嫌いなものも、出されたらちゃんと食べるようになっていました。
ただし・・・それは外だけのこと。
自閉症のお子さんあるあるで、療育施設や学校では食べられても、自宅では絶対に食べることができませんでした。
自閉症のお子さんたちはパターンで生きているところがあります。
学校や療育施設は嫌いなものも食べるところ。
家は食べないところ。
そう決めているのです。
嫌いなものは食べられない。
でも、
「ずっと食べたくない、わけではない」
のでしょう。
「食べてみたい。みんなみたいに食べられるようになりたい」
成長と共にそういう気持ちが芽生え、心の奥では葛藤していたのかもしれません。
でもお母さんとではうまく「食べる」になれない。
なぜなら、今までずっとそうやって食べられずにきたから。
食べられない、が家のパターンだから。
だから・・・、だからこそ、
自ら「きらめきのところでがんばる」と奮起したのでしょう。
偏食指導や運動、行動トレーニングを受けていくうちに、このお子さんは、「きらめきとならできる」という実感を得てくれたのだと思います。それがこの6年間の成果。このお子さんの頑張りの結晶です。
今度は、「きらめきとはできる」から「お母さんともできる」にスライドしていく時です。
療育施設の難しさは、施設(教室)や私たちとはできても、家や家族とはできないままということがあることです。それは何故かというと、
①私たちは先生で、お母さんは親であるということ。ありのままの自分を受け止めてくれる存在であるからこそ。
そして、
②私たちのようなスキルが保護者にはないこと。
③自宅内に介入できないこと。
という理由が挙げられます。
お母さんはお母さんであり、先生ではないので、ありのままを見せることができ、受け止める関係が築けているというのは愛着形成の上からも大変大切なことですね。
でも、日常生活の上で考えると、子どもの抑制が効かない、癇癪が止まらない、パターンを上手に変えていくことができない、みんなが疲弊し、危険と隣り合わせ、というのでは本当に毎日が困難で、結局は子どもと向き合うのが苦しくなってしまうのです。
だからこそペアレントトレーニングというものがあるのですが、実際は家ではお母さんが一人で模索し、なかなか思うようには進まないことが多いです。
そこで療育施設では一番大変な時の状態を組み替えていく作業を担い、あとはスイッチを入れさえすれば起動できるように下準備をしてあげるところに意味があります。ここが、ただお預かりだけすればいいと言うわけではないと言われる理由です。そして下準備ができたら、家でもできるように伝授していかなければなりませんが、本当なら自宅にも訪問させていただいて、その場でお母さんともできる!を体験してもらうと一番良いです。
今回、私は私の家でできるをもう一度体験し、スライドして自家でもできる!を実現するための秘策を使用しています。それはこの記事の最後に書かれています。
子どもたちの体は、刺激を受ければちゃんとそれに応えることができるように神経が繋がり、回路ができていきます。自閉症や発達障害の子どもたちは、少しそれがゆっくりなのです。そして、その回路ができても、それを起動させるためのスイッチが必要で、それを押すための刺激も必要なのです。
スイッチができるまでは、ひたすらに同じ言葉がけと同じ行動をマッチさせることの繰り返しが必要です。ピピッと頭に刺激が入る声かけや目線が必要です。条件反射のように、繰り返し刺激が加わり、スイッチが押され、行動が生起された時、褒められたり、好きなものを食べる順番が来るといった嬉しいこと(報酬)があると、その良い行動を強化する強化子にもなります。こうしてさらに好ましい行動が増えて新しい回路が出来ていくわけです。
さあ、そんな原理を使って切磋琢磨した間柄の私とそのお子さん、そして私の夫、息子(どちらも私の療育施設で指導員の経験済みで、先生と呼ばれています)との一泊療育が始まりました。
目標は
トマト、きゅうり、キャベツを食べる!
そして、これを機に家でもチャレンジ出来るようになる!
そして、それ以外にも、
生活基本的動作(歯磨き、服の畳み方、等)
お風呂に一人で入れるもん計画
調理実習
お皿の洗い方
学習
野外活動
買い物体験
音楽鑑賞
など、盛り沢山のメニューを用意しました。
本当は、日曜日に天気が良ければ、息子が生き物博士なので、散歩がてら川辺の生き物を学習しようと思っていたのですが、生憎の雨でそれは次回に延期です。ちなみに近くの川辺には、ヌートリア、カワセミ、鯉、亀など、え?と驚く種類が生息しているそうです。
結局このお子さんはこの一泊二日で、あっ?と驚く成長と、とても自閉症児と思えぬバイトリーダー顔負けの素晴らしい働きを見せてくれました。自閉症の子供たちは、時に本来の姿、力を発揮して、中に入っている人格が前面に現れることがあるのです。
目標の、トマト、きゅうり、キャベツは果たしてどうなったでしょうか?
家でお母さんと一緒でも、食べられるようになったでしょうか?
さてさて、その様子はこの後に・・・・・。