きらめき 綴り

療育アドバイザーとして活動しています。日々の心の煌めきを大切にしています。

スリランカと日本。日本人が知っておかなければならないこと。「人はただ、愛によってのみ憎しみを越えられる。人は憎しみによっては憎しみを越えることはできない。」

初夏のことだった。

夫がスパイシーなものが食べたいと言い出した。

きっと、これからやってくる過酷な暑い夏に備えて、心も身体もシャキッとさせておきたかったのだろう。

それには私も大賛成だった。

きっとインドやネパール料理に行くんだろうな、と予測した。

なぜなら、夫の大好物だからだ。

いや、もしかしたら韓国料理という可能性もあるかも?と、色々先読みしてみたが、行ったことのあるところより、ちょいと新規開拓もしてみたいらしい。

そんな夫が探して見つけたのは、、、。

なんとスリランカ料理。

 

ほぉ。スリランカ料理か!それは未知の領域!

なんでも新しく出来たらしい。ちょっと勇気要。

でもそのお店の評価が高いのが決め手となった。

そうと決まれば善は急げ。慌てて用意して出かけた。もう夕暮れ時も過ぎ、結構いい時間だ。席空いてるかなぁ。

 

1年前にオープンした、まだ新しいそのお店は、こじんまりした建物の2階にあった。

階段を上がりドアを開けると、壁一面にフェイクグリーンがあしらわれ、ジャングルっぽさ満点。

入口には仏像の面と、なにやらバリ島の舞踊のバロンの仮面のようなものが飾られていた。

幸い他にお客は一組。ラッキー♪

思ったよりこじんまりした部屋の真ん中に、ドン!とUの字にカウンターが置かれている。その中央にその店の主が立っていた。

「いらっしゃいませ」「お好きな席へどうぞ」

パッと見、外国の方だとは分かるが、日本人でも通用しそうな端正な顔立ち。でもワイルド感溢れている。そして、話す日本語がとても綺麗で自然だった。

何より、目が印象的。

目力だけではない。何か国籍を超えた奥の深いものを感じさせるのだ。

 

一番端っこの、だが主にいちばん近い場所に夫と2人座り、店内をキョロキョロ。

その様子が可笑しかったのだろう。

「何か気になるものがありますか?」

と主が気づいて声をかけてくれた。

「ええ、あのお面が」

と夫が答えてくれた。

私はバリ島のバロンがなんだか好きだ。そのバロンの顔に似ているが、少し違う。

髪が蛇になっている。メドゥーサみたいに。

「あぁ、あれはナ―ガ ラクシャ。舞踏のマスクだよ。頭がコブラになってる」

と主が教えてくれた。

メドゥーサみたいね、と私が言うと、主も頷いていた。知っているようだ。

ナーガはインド神話に起源を持つ蛇神らしい。スリランカでは伝統舞踊のコーラムで悪魔払いとして使われる仮面だそうだ。

そのナーガの仮面の上には仏像の頭部が飾られていた。

あれは?と聞くと、「日本で買った」と教えてくれた。なんで仏像なのかと不思議に思ったが、スリランカは70%が仏教徒なんだそうな。次いで、ヒンドゥー教イスラム教、キリスト教と続く。てっきりヒンドゥー教の国だというイメージを持っていたので、大半が仏教徒ということが意外で驚きを隠せなかった。

「日本と同じやね」と言うと、

主が「スリランカと日本は仲良しの国」と言った。

どういう意味で言ったのかピンと来なかった。仏教の国同士という意味だろうか?

私たちは、そう言われて否定する理由は何一つなく、ただただ、曖昧な頷きを返すしかなかった。

それを見て主は更に、「サンフランシスコ講和条約を知ってる?」と尋ねてきた。

唐突だった。

勿論サンフランシスコ講和条約は知っている。

「じゃあ、スリランカが日本を助けたことは?」

「ん?え?」

スリランカが日本を?聞いたことある?と夫に聞いたが夫も首を横に振った。

「それは知らな〜い」

軽く返したその時、一緒その主が悲しそうな目をした気がした。

「日本でもテレビでこの話、取り上げて番組になってたよ」

 

これは軽く知らないで返してはいけないことかも、、、という雰囲気を感じ、しまったと思い、すぐさまスマホで調べてみた。

 

そこに書かれていたことは、

サンフランシスコ講和条約において、スリランカ(当時はセイロン)は、他の諸外国が日本を占領下に置き、国土を分断し統治すること、そして厳しく賠償請求する考えを示していた時、当時の大統領が日本に対する賠償請求を放棄すると表明し、演説したことにより日本の独立と戦後復興に大きく貢献した。特に、スリランカのジャヤワルダナ大統領(当時蔵相)は、会議で「憎悪は憎しみによっては止まず、愛によって止む」という仏陀の言葉を引用し、日本を国際社会の一員として受け入れるよう訴えた。

 

ということだった。

こんな話、私は初耳だった。夫も然り。

 

どうやら、日本はソ連アメリカ、イギリス、中国に分断され統治されそうだったらしい。

「もし、そうなっていたら、貴方がた日本人は、今頃他所の地域に行くときパスポートがなければ行けなくなっていたんだよ」と、主が付け足した。

何故、当時のスリランカの大統領、ジャヤワルダナ氏は日本を庇ったのだろうか。

主は言った。

「憎しみは憎しみによっては止まず、愛によってのみ止む」

「これ、ジャヤワルダナ大統領が言った言葉。仏教の言葉」

と。

これには感銘を受けた。

ここに、仏教の言葉が出てくるとは思わなかったからだ。

しかし、その言葉にはしっくりくるものを感じた。

それは日本も仏教の国、そして私は自覚はないがいわゆる仏教徒だからだろう。

スリランカと日本は、お互いに仏教国。

その事が、日本を守ることに繋がった。

仏教の言葉によって。

 

ただ、それだけではなかった。

スリランカがイギリスの占領下に置かれた時、イギリスはスリランカの人々に、イギリス軍と共に戦うことを強要していたが、そこに踏み込んできた敵としての日本の兵士は、「私たちはあなたたちを攻撃する為に来たのではない」として、明らかにイギリス軍を狙って攻撃していた、という逸話もあるそうだ。

スリランカにとっては、日本も敵だが、占領し、スリランカの人々を戦火に巻き込みイギリスの為に戦わせたイギリスもまた敵だったに違いない。

そして、当時の日本が周りのアジアの国々とどの様な関係性を持ち、どの様に位置づけられていたか、も関係していたのだろう。

 

こうしたことが背景にあったからこそ、あの「人はただ、愛によってのみ憎しみを越えられる。人は憎しみによっては憎しみを越えられない」という言葉に繋がったのではないだろうか。

これは、今の日本にとって、多くのことを考えさせられるものなのではないかと思った。

 

そしてもう一つ主は教えてくれた。

ジャヤワルダナ大統領は、遺言に

「これからもスリランカと日本という2つの国の行く末を見守っていきたい。そして、2つの目の内、片方の目の角膜をスリランカ人に、そしてもう片方の目の角膜を日本人に移植してほしい」と書き残し、実際にその通り片方は日本人女性に移植されたこと。

そして、それが日本での角膜移植の走りになったことを。

 

私はここまで聞いて、自分の無知を恥じた。全然知らなかった。

夫もそうだった。

いや、きっと、日本人の多くが、自分たちにとって非常に重要なこの出来事を知らないだろう。学校でも教えていないだろうから。

なぜ教えないのだろう?こんなに大切なことを、と思った。

例え、それまでに至る背景があったとしても、今、私たちが平和に自由に生きていられるのは、ジャヤワルダナ氏の演説があったからなのだ。

吉田茂元首相は「スリランカへの恩を未来永劫伝えなければならない」と言っていたそうだ。

これはそのジャヤワルダナ氏の演説の内容だ。なかなか全文を見つけられなかったが、この鎌倉大仏殿高徳院のHPの中に、和訳と共に載っていたのでここに貼らせていただこうと思う。

ぜひ目を通していただきたい。4ページからです。感動的です。

president_jayewardana.pdf https://share.google/dakOgHp7TfzSRVjL0

 

(もし見れなかったら教えてください)

 

 

私と夫は胸にズシンと重いものを感じていた。

そんな私たちに主は話しかけ続けてくれた。

 

おしんは知ってる?」

来た、おしん。アニメ同様、おしんは海外で人気なのね。そう思った。

私は殆ど、おしんが冬の川で洗濯物を洗っているシーンしか知らない。

夫は全く知らない。

「じゃあ、ゆうこ•たなかは?」

田中裕子のことだな。それは知ってる。子役が小林綾子なことも。

おしんの舞台は山形だって知ってる?」

ひえぇ。ごめんなさい、全然知りません(汗)

と、ここまでずっと知らない自分に冷や汗、脂汗。

おしんは海外58国で放送され、人気絶大なんだそうな。みんなで見ていたと教えてくれて、うわぁ、そうなんだ、、、本当に人気なんだ、と初めて実感した。

 

主が言うには、スリランカで大学院まで出たあと、日本に旅行に来たのだそうな。その旅行で、たいそう日本を気に入り、一旦スリランカに帰ったあと、また来日し、まずは知っているところとして、おしんの舞台である山形に移り住んだらしい。

勿論、そこに「おしん」はいない。

それでも大好きなおしんの舞台になった土地だと思うと感慨深かったそうだ。

 

ゆうこ•たなかが演じる大人になったおしんは、その後、話の終盤には高度経済成長期の日本で上京し懸命に働くことになったこと。

女性進出やその頃の時代背景などが描かれたお話だよ。

 

と、そこまで丁寧に教えてくれた。

 

私はおしんの終盤の話がそのようになっていることなど全く知らなかったこと、そして、それをスリランカの若者に教えてもらったことに絶句だった。

 

この主と話していると、全く国の違いを感じさせないものがあった。

生まれた国は違えど、人と人として、同じ。

心と心は通じ合う。

そういった感覚をもたらしてくれる人だった。

それは恐らくこの若い主が持つ思慮深さから来るものなのだろう。

それが、あの目に表れていたんだ。

 

そうそう。

肝心なスリランカ料理。

「僕らは右手の親指を他の4本の指に添えて、料理全体をまず混ぜてから、掴んだり掬ったりして食べるよ。そうすると美味しい。良かったら試してみて。その時はフィンガーボール渡すから。」と勧められた。

この状況で、断れるはずもない。

 

は、はい、試してみますとも、、、(汗)

まだ熱々の料理に指を突っ込む。

あ、あついよ?

「僕ら、暑い国だけど、熱い料理好きね」

そ、そうよね。わかりました。

 

もう、有無を言っている場合では無くなっていた。

まぜまぜ。まぜまぜ。

うん、上手く食べられるかどうかに神経は全て行っていて、美味しいかどうかを堪能する余裕が無い、が、初めて食べるスリランカ料理は、これまで食べたことのあるインド料理やネパール料理とは違い、どちらかというと南インド料理に近い、美味なお料理だった。

私が食べていると、ビールを取りに来がてら、上手く食べれているか、さりげなく見に来る。そして、大丈夫?と声をかける。そして、「もう少し4本の指を揃えて全部使って」とアドバイスもくれた。

この主、非常に気遣いの人だ。

そして非常に賢い。

恐らく療育の世界でも群を抜いて活躍できる力の持ち主だろう。

 

 

そうそう。この料理と相性が抜群なのが、勧められたライオンビール!

タイのビールと違って苦味がキツくない。非常にすっきりしていて美味しい!

このビール美味しい!と言うと、みんなそう言う♪と喜んでいた。

 

瓶、持って帰っていいよ、と言われ、記念に持って帰ることにした。

 

小さなお店だったが、異空間にいるかのような濃厚な時間を過ごした。

 

さあ、店を出る時間が来た。

私は席を立ち、主の横を通る時、こう声をかけた。

サンフランシスコ講和条約の話、日本人に伝えますね」

 

恐らくそれが、一番のこの主の願いだろう。

 

主はとっさのことで無言だったが、感慨深いものがうっすらと表情に浮かんでいた。

 

 

ドアを出る時、壁にかかった仏像の面の横を通り過ぎた。