きらめき 綴り

療育アドバイザーとして活動しています。日々の心の煌めきを大切にしています。

心に刻むこと。

もう10年ほど前になるでしょうか。

縁あって一人の子どもが私のところへやってきました。ゲーム依存のお子さんでした。

家にいる間は片時もゲームを離さない。

同時に両手で2つのゲームをしているので、手離せないから食事は合間を縫って手掴み。

母親が注意しようものなら激昂する。

物を投げクーラーなどの家電用品を壊す。

延々泣き喚く。

という状態で、お母さんが困り果てておられました。

当時小学生の低学年だったその子は、小柄で可愛らしく、口も達者ではない目立たないお子さんで、宿題はちゃんとして来ていた為、学校ではノーマーク状態でした。

当時、このお子さんの様に、「え?この子が?」と、にわかには信じられないような大人しいお子さんが家庭内でだけ暴れるというケースが増えてきたころでした。

外では大人しいので、お母さんの困り感は理解してもらいにくく、本人もなかなか援助してもらえないということになりやすいです。

では、なぜそういった子が家でだけ暴れるのか?

という問題には、その子の置かれた背景を見ていく必要があります。傾向として、外では不安や緊張が高く、人目をとても気にするところがあります。宿題はしていかなきゃいけないとはよく理解していますがゲームに没頭していたり、後回しにしていたりで気がつくと夜中近くになっていて、そこからパニックになって泣き喚きながら宿題をしだします。夜はもう寝て、朝早く起きてしようと説得しても、「宿題は夜する」と頑なに考えていて応じられません。なので、宿題は忘れませんが家庭では大変な親子の葛藤が起こっている、という、問題が見えにくいケースです。

このお子さんも、本来は生真面目で融通の利きにくい性格のようで、まさにこのタイプでした。所謂ASDADHDの混合タイプです。

ただ、背景にはそれだけでなく、子どもがゲーム依存となるケースの中には、家の引っ越しや転校、いじめという子どもにとっては大きな環境の変化や悩みがあることがあります。新しい学校に馴染めず、親しい友だちも出来ない。帰ると遊ぶ友だちもいない、学校でも1人(だと本人が思っている)、緊張や不安が続く。家で、ゲームをしている時だけがホッとする時間。その寂しさを紛らわすように段々ゲームにのめり込みます。ゲームだけが友だち、イヤなことを忘れられ、安心できる時間。だから、取られると激昂するわけです。

お母さんのお話の中から問題の背景を浮かび上がらせて、1つ1つ選り分けて対処していきました。まずはそのお子さんの気持ちに寄り添い、固い認知を解して適切な考え方や行動の仕方を伝えました。

宿題は朝しても良いこと。

夜は早く寝ること。

宿題はできる範囲で良いこと。

などです。

学校の先生にも連絡して共通理解を持ってもらい、共通の対応を取ってもらえるようにお願いしました。

 

友だち作りも大切です。認知に偏りのあるお子さんの中には皆からちゃんと「友だち」と認識されていても本人はそう感じていない場合があります。

転校したお子さんなら、前の学校の友だちだけが、友だちと思っていたり、「友だちって、親友だけが友だち」と考えていたり。わざわざ「クラスのみんなは友だちだよ」とか「みんなは友だちと思っているよ」と言ってあげないとわからない。ということがあります。「友だち」という概念形成がうまくいっていないとか他者の気持ちが分かりづらい、といった特性も要因の1つに入っていることがあります。こういった認知の穴を塞ぐ作業や、学校の先生からクラスのみんなとの関係の調整や本人への配慮をしてもらうといった対応をして、本人が実感できるように働きかけることが必要です。

宿題に関しても、先生からも「朝してもいいんだよ」「できなければ学校で一緒にしよう」と許可を出してもらいました(この家庭と学校、療育と家庭、のように関係する両方から許可が必要なことを、私は『二段階許可』と呼んでいます。)

こういった、ゲームに固執しなくても大丈夫な様な環境調整をすることで、背景の問題は一部取り除くことができます。ここまでくると、本人の気持ちはずいぶん楽になることでしょう。一人で抱えていたことを理解してくれる大人がいて、自分の為に立ち回ってくれるというのは心強いものです。

 

ただ、それだけでは1度ゲーム依存のサイクルに入ってしまったものは簡単には元に戻りません。次には、親子関係の見直しや関わり方に問題が移っていきます。遡れば、小さいときにどのような行動トレーニングをしてきたか、ということに焦点が当たります。例えば買い物中に子どもがおねだりをして、ごねだしたら?取り敢えず欲しいものを買い与えてその場をしのぎますか?それとも、泣きわめくかもしれませんが、1度買わないと伝えたらそれを通しますか? 行動トレーニングとは、そういった幼少期から始まっていると考えられています。

もし、その時代に上手くトレーニングが行われていなくて、現在の問題に繋がっているとしたら?もう一度、やり直すことになります。倍の時間がかかりますが、遅すぎるということはありません。

ただ、中には、この行動トレーニングを家の中でお母さん一人で行うことが困難な場合があります。お母さんの精神的な状況というのもあるでしょう。切羽詰まっているケースもあります。

 

私は、自分の子育ての経験から、そのお子さんはゲームから一度離れた方がいいと考えました。ゲームを家から無くすのです。

何日か荒れるかもしれませんが、それも数日だけのこと。お母さんが本気だと悟った子どもは、ゲームがしたいがゆえに、今度はルールを守ろうとし出します。トレーニングだけでは、改善に長期間かかり、その間このお母さんは、ゲームを持たせたままの状態での子どもの反発には耐えられないだろうと判断したのです。一旦子どもの理性を取り戻し、平常心に戻ってもらう必要がありました。

そしてお母さんには、この行動トレーニングの方法をお伝えしました。もしも子どもが荒れたら、どうしたらいいのか?とご不安のご様子でしたが、学校とも相談し、子どもさんが暴れた時には、一旦学校の管理職が家庭訪問をして、ゲームを預かる役をすると、申し出てくださいました。

家庭内にあれば、部屋中をめちゃくちゃにしてでも、親がお風呂や寝静まった後でも、必死にゲームを探してしまうので、完全に家からゲームを無くしてしまう方が諦めがついて良いからです。

 

ところが、公的機関の臨床心理士がこれをストップさせました。また別の公的機関の職員もそれに同じ意見のようでした。取り上げた時の子どもの反発にお母さんが耐えられないと考えたのです。

学校と私側の療育施設は、普段から子どもに直接関わる機関です。言ってみれば実戦部隊。子どもたちへの対応を考える時、しばしば心理職との見立ての違いが発生します。直接関わることのできにくい心理職は、どちらかというと緩やかな手立てに傾きがちだと感じることがあります。しかし、学校や私側は、直接子どもたちに関わることができるので、どれくらいまでの手立てなら有効かと、実際にその子を見ながら検討することができます。

 

学校と私との意見は一致していましたが、こういう場合は心理職の意見が通りやすいので、結局このお母さんは自宅でお一人で子どもにゲームを持たせたまま、行動トレーニングをすることになってしまいました。

その間は教育センターの心理士が主導となります。

 

それから数ヵ月後。私はその時の職場を事情により離れることになりました。お預りしていたお子さんのことは全員、気になっていましたが、とりわけそのお子さんのことが気にかかっていました。

なぜなら、そのお子さんにとって、私が重し役になっていたからでした。

 

さらに2ヶ月ほど経った頃、風の便りにそのお子さんが何ヶ月か親元を離れ過ごすことを余儀なくされたことを知りました。

お母さんが耐えきれなくなってしまったのです。このままでは、事件になりかねない、とSOSを出されました。

結局、しばらくしてから家に戻されたそのお子さん。それからは親戚のお家がゲームを預かることになりました。

「遊びに行った時だけすることができる」というルールに決まったそうです。

 

それからそのお子さんは、憑き物が落ちたように大人しく生活されるようになりました。

 

ただ、親元から離れてい過ごしていた期間、そのお子さんはどんなに心細い気持ちで過ごしていたでしょうか。

それを思うと胸が痛んで仕方ありませんでした。

例え、心理職や子家センの意向だったとしても、もっと、強固に見解を打ち出せば良かった。あの時、学校の管理職も同じ見解で、みすみす受け入れなければならなかった方針に苦渋の表情を浮かべていましたから、もっと協力して打ち出せば良かった、、、。

 

と、今でもあの時の苦虫を噛み潰したような気持ちは忘れることができません。

 

 

 

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