きらめき 綴り

療育アドバイザーとして活動しています。日々の心の煌めきを大切にしています。

筋力の大切さ。千里の道も一歩から。

前回は「右脳に傷のある少年」について書きました。

私の元へは、他にも脳性麻痺により同じように左半身に麻痺を持つお子さんや、正式な診断名はついておられませんが、全身の筋力の発達が遅れていて、協調運動が苦手で、空間認知能力も弱いといったお子さんなども通われていました。

子どもたちはそれぞれに発達の遅れを持ちながらも、身体の骨格は年相応に成長していかれます。

女性は遺伝的な要素もありますが、年頃になるとホルモンの影響から、丸みを帯びやすいという傾向があります。

男性は中学生あたりから、みるみると大人の骨格へと変化していかれます。

どちらも第二次性徴期にはホルモンの影響を顕著に受けるようになり、精神面とのバランスが取りにくくなり、不安定な時期を迎えます。

身体の成長に伴って出てくるのが体重の問題です。

成長に沿って、日々の活動量も増えていくことが望ましいですが、様々な要因で、これが叶わない時、次第にエネルギーが余り、身体に蓄積されていきます。

身体に蓄積されたエネルギーは、体重の増加となって現れていきます。

体重の増加のスピードに、筋肉量が伴わないと、子ども本人は体重が軽かった時に比べて数倍負荷がかかり動くことがしんどくなります。

動くことがしんどくなると、動くことへの抵抗が増え、ますます活動量が減り、次第に日常生活の動作はもとより、運動は特に苦手になっていきます。

成長に沿って、筋肉も並行してつけていくことができていれば問題ありませんが、そうではない時、身体の重みを支える負担は関節にかかってきます。

 

筋肉は、関節の周りにつくことで、関節を外側に引っ張る役目をしてくれるので、重みがかかるのを緩和してくれます。

その筋肉が関節周りについていないと、関節の骨と骨の間の軟骨がすり減り、やがて骨と骨が当たり、痛みが出るようになります。

こうなると、ますます動くことは困難になります。

 

私も、年齢を重ね、つくづく体は消耗品だなと実感します。一旦すり減った軟骨や歪んだ関節や骨はなかなか治るものではないでしょう。そう考えると恐ろしくなります。

すり減る前に、歪む前に、手立てを打つことができれば、それに越したことはありません。

そこで、必要となるのは、やはり筋肉です。

 

筋肉をつける、といっても、元々身体が弱かったり、力が入りづらかったりする子どもたちですから、アスリートの様にトレーニングができるわけではありません。

腕立て伏せ、腹筋、スクワット、などといった、オーソドックスなトレーニングができなくても、体を動かすことがままならない子どもたちでもできるトレーニングもあります。

 

例えば、

わたしの元には中学生の段階で、全身の筋力が弱く、手先、足先への神経も行き届いていない為、自分の思うように体をコントロールできないお子さんも通われていました。

全身の筋力が弱く、神経が行き届いていない、という状態では、例えば硬いものを噛む顎の力が弱い、全身のボディイメージが掴めず、髪をとく(頭にブラシを当てる)、歯を磨く(歯に歯ブラシのブラシ部分を当てる)ことができない、髪が洗えない、箸、スプーン、フォークが使いづらい、鉛筆を持ちにくい、筆圧が弱い、服の着脱がしにくい、傘をさせない、などといった生活の中での基本的動作というものにも困難が生じます。

ボディイメージが掴めない、という状態には空間認知能力というものが関与しています。

全身の神経が行き届いていないとき、自分の手足の感覚や身体の向き、物と自分の位置なども掴みにくく、動き自体が阻まれ、自然と動きが少なく緩慢になります。

自分の手足を動かす為に、自分の手足が今どこにあり、どういう状態にあるか、をまずは確認することに時間がかかります。

自分の身体の位置を掴めたら、次は物との距離を目を使って測ります。

次はその距離が、自分の能力で可能かどうかの検討に入ります。

自信がなければ、そこでストップし、自信があれば勇気が出て行動に移そうとします。

ただ、それだけで成功するとは限らず、目測した距離が実際とは違う場合も多々あります。

一つ、行動に移すにも、本人なりに行動を完結する為の時間が必要となります。

これを介助者がずっと見守ろうと思うと、想像を絶する時間が過ぎていく、ということになります。

なので、親御さんが全介助に近い形でずっと付き添われていたわけなのですが、私の元では、利用日には様々な運動に取り組んでもらっていました。

•床に手を付く。

•手足をついた四足歩行で前進、後退、横歩き、障害物をまたぐ、スロープを上り下りする。

という動きは特に基本でした。

•初めは、ハイハイの様に膝をついたところからでも構いません。

•必ず、「手はパーで開くよ」と、見える位置で手を開いたところを見せてあげ、イメージしてから実際に本人の手を広げてもらうことが大切です。

•指が丸まっていると、手首で体を支えることになります。初めはそれでも腕の力がつくので良いのですが、指を広げ、指先に力が入っていくことを目的としているので、徐々に5本の指を床につけて進めるように段階を踏みます。

指先の巧緻性を養う為に、細かな作業から入る方が多いですが、特に粗大運動から始めることが大切です。

身体の発達は、中心(体幹)から末端(指先)へと進むからです。

また、四足歩行は固有受容覚(自分の体のパーツがどこにあるか、筋肉や関節の動きを感じる)を使いボディイメージが掴めるようになりますし、頭を下げることから前庭覚(体の動きや傾き、スピード)を養う事ができます。

•1本のタオルの端と端をお互いに持って引っ張りあいをすることで「掴む」「引く」という感覚が養えます。

•その場で両足ジャンプをする。ほんの少しでも足が床から離れたり、回数が一回でも増えたらハイタッチで喜び合う。

といった体全身を動かす簡単なメニューから始め、

•次第にボールをキャッチする、投げる、目で追うなどといった物を使った動き、集団での活動などへも広げていきました。

 

利用回数が少ない場合は、ご自宅でもできるメニューに取り組んでもらい、進捗状況を確認していました。

例えば

サランラップなどの芯を、両手で持てるお子さんなら、腰の辺りで持ってもらい、片足ずつ、その芯に当たる程度に太ももを上げます。右、左、交互にゆっくりでいいので当てます。自分で持つと転倒しそうな場合は体を軽く支えたり、芯を持ってあげたりしても良いです。

•椅子に座ったまま、ご自身で芯を持ち、太ももを当てるところから始めてもOKです。

•何十回もしなくても、毎日5回するだけでも、1年後、2年頃には違いが出てきます。

私の元に来られていた方は、毎日5回続け、高校生の頃には見違えるように歩いたり走ったりできるようになられました。

 

•手はその場でグーパーをするだけでも違ってきます。ゆっくり本人のペースで良いので、指を広げ、また閉じる。それを5回。

•次に脳に刺激を入れ、より動かしやすくするために、「グー!パー!」と、ややリズムをつけ、少しだけ速いテンポで声かけをします。この時、声かけは動作より1テンポ速めにかけなければ効果がありません。脳に伝わってから指に指令が届くまでにタイムラグがあるからです。

 

それは、トレーニングの様に見えないくらいの負荷かもしれませんが、ままならない子どもたちからすれば、私たちがトレーニングを行って受けるものと変わらないほどの負荷がかかっていることになります。

ただ厳しいだけでは嫌になります。

ほんの少しいつもより頑張れた、そこで「できたね!」「がんばったね!」で終われることが大切です。

また明日もしよう♪

本人がそう思えるからです。

 

ここで、別の方のお話ですが、私が出逢った頃にはすでに高校生で体が大きくなっておられた方は、筋力が間に合わないまま成長されていたので、麻痺側の膝が負荷を受けやすく、少し無理をすると膝にダメージがいくようになっておられました。

こうなると、筋力をつける為の簡単な動きも制限を受け、食事も制限していかなくてはならなくなり、なかなか良いスパイラルに入ることができない、ということがありました。

麻痺があるということは、痺れを感じたり、麻痺の無い方に比べてドンと重く感じたりすることが多いので、余計に動く為に必要な力が増えるということになります。

身体が少しでも軽い間に、地道ではありますが、少しずつ負荷をかけ、筋肉量を増やしていってあげることが、成人期に向けて大切であると、この仕事をしていてヒシヒシと感じていることでもあります。

 

手や腕、足の筋や腱も、伸び縮みが少ないと、すぐに硬く縮みがちです。

縮んだアキレス腱を伸ばす手術を受けた方もいらっしゃいますが、手術は受けても、その後、踵を床につけて歩く、という意識を続け、歩行訓練をしなくては、踵を上げて歩いていたころの癖が治らず、また腱が硬くなる、という場合があります。

自閉症も併せ持っている場合は、特につま先立ち歩きになりがちですが、こちらも前重心になっている上体を骨盤の上に垂直になるように軽く戻し、踵をつけた状態から歩き始めるという重心の修整を入れてあげる必要があります。

手を引く速度が速いと、また、上体が前傾し、腰が引けた状態で歩くことになるので、 繋ぐ手は上体が真っ直ぐを保てる高さに戻し、本人の手に力が入っても、高さが変わらない様に、介助者は腕に力を入れ、保つことが大切です。

もし、お一人でも歩けるようなら、「手を振って歩く、手を振って歩く」と、歩調にきちっとテンポを合わせて、介助者も同時に手を大きく振って歩く(本人と介助者との間の腕が同時に引っ付いて、磁石の様にひっぱるイメージで)ことで、本人たちの意識が腕に行き、振りやすくなります。

ある方はこれを重点的にしてだけで、左麻痺により、左が重く、体を左右に振ることで原動力にし歩いていたのが改善し、歩幅も広がり歩く速度が速くなっていました。

 

太ももは筋力がつくことで、足は上に引き上げやすくなり、つま先が上がり、着地が安定しだします。

外反母趾の場合は土踏まずを支える、足に合ったインソールを入れられると良いです。

 

不安定になる精神面にも細かな配慮をしながら、楽しく取り組みを続けられると、きっと効果が感じられる時が来ると思います。

 

わたしもバレーボールを18年もしていた頃は筋肉量がかなりあり、サーブは重みがあって受けた人が飛ばされる為、取れない!と言われていました。

また、他の女性たちが開けられないペットボトルのキャップなども、渡されると軽く開けることができていました。

運動量が減り、約10年かかって筋肉量が減った時、今まで出来ていたことが出来なくなっていく現象を目の当たりにし、あれは筋肉の無せる技だったのか!と初めて実感している今日この頃です。

また、別の時期に両膝をそれぞれケガし、縫ったことにより、一時足の筋力が衰え、足底筋も減ったことで足裏の痛みや脛の外側に痺れが来ていた時期がありました。一キロも歩けば痛みが出て仕事に支障が出ると心配していましたが、たまたまハードな親子体操の講師を引き受けたことで、走り回らざるを得なくなり、結果として、それが幸いし、また足底筋や脛の前方部分、そして膝上から太ももにかけての筋力が復活し、足の故障が1年で自然消滅しました。

筋肉がある時には、筋肉があり、それによって恩恵を受けているということはなかなか実感しにくいものですが、無くなって初めて、筋肉の働き、運動というものの重要性、を身を持って知りました。

私の例は極端ですが、参考までに書いてみました。

 

これは時々書いていることですが、筋肉をつけるには、やはり「千里の道も一歩から」。

こつこつと続けることが身を助けます。