大切なお子さまが生まれてから、慈しみ育てて来られたお母さん、お父さん。
たっぷりと愛情を注ぎ、毎日の変化を喜び、すくすくと育ってくれることを願いながら過ごす中で、どうしても上手くいかないことが増えていき、もしかして・・・と、ある1つの仮説、または結論に至り、それを理解し飲み込もうとする中で出会った数々の方法たち。
それを、出来ることなら 次に上がる小学校でも使ってもらいたい。今の安定を崩したくない。
そうご両親が願うのは、ごくごく当然のこと。
なのに、そこに落とし穴がある。というのはどういうこと?
理由は2つあります。
1つは、前回も触れたように、学校は園とは違い、圧倒的に大勢のお子さんが通い、イレギュラー満載の世界であること。膨大な量の内容を学ぶ場であることが挙げられます。
これは、個別の対応を諦めなくてはいけない、ということではありません。
ではどういうことかというと、
「学校は、園とは全く違う形態の組織だ」ということをまず理解しておくこと。そして園で教わったことを全て移行しようと思うと、無理があるので、学校用に上手にアレンジして、お子さんが無事に学童期に入っていけるようにすることが大切なのです。
まずはご両親のプチアップデートが必要なんだと考えていただければいいかなと思います。
もう1つは、お子さんが、〈成長の過程〉であるということです。
この世界に生まれでて、何も分からない赤ちゃんの頃から、たったの数年で、見違えるほど成長したお子さんたち。毎日が嵐の様で、ともすれば大人は目の前の子どものちょっとした成長に気づけないことがありますが、一年単位で見てあげると、確実に去年とは背丈も体重も行動もできることも変わっているはず。子どもたちは、実は凄まじい早さで成長をしているのです。
だからこそ、園で様々な方法で手だてを打った時、お子さんは落ち着いたり、少しアピールが上手になったり、コミュニケーションが取れたりするようになったのでしょう。お子さんたちは、知らず知らずのうちに、学習しておられるのです。
これからイレギュラー満載の世界でお子さんが生きていこうとする時、園と全く同じ配慮や手立てでは、やがて上手くいかなくなります。
必要なのは、「この先」、小学校6年間、中学3年間、高校3年間と進んでいくにあたって、どのようになっていってほしいか、ぼんやりとでもいいので思い描き、そこに向かうには、どんな階段を上っていけばいいだろう?と考える〈大局観〉。
そして、「今」どういう状態にあって、次に一段上に行くにはどうしたらいいか?考えるという、〈細かい変化に気づける目や感性〉です。
この大局観と細かい変化に気づける目と感性を使い、お子さんのこだわりに対する支援方法を、お子さんの細かな変化に合わせてアップデートさせていくのです。
パターンで生きている自閉症のお子さんたちは、同じルーティン・こだわりが好きですが、成長をしようとする脳は、実は新たな刺激を求めていて、変化も欲しています。同じルーティン・こだわりを繰り返しながらも、変わるチャンスを求めています。
ですが、そこに大人が気づかずに、この子にこのルーテインやこだわりは必要なんだ!と守ってしまうとします。そうすると、そのルーティンやこだわりを行う期間が長くなり、そうなればなるほど、そのこだわりは強固なものとなって、外すのが困難になってしまうのです。
強固になったルーティンやこだわりは、お子さんたちを楽にするかというと、そうではありません。ルーティンやこだわりが崩れそうになった時の、焦りや恐怖は、私たちが思う以上です。外そうとすると、抵抗から大荒れになります。大きくなってからでは、ご両親や先生の力ではどうしようもなくなります。
だから、まだ小さい内で、こだわりの期間が浅い内から、〈変化〉する機会を与えてあげることが重要です。
変化させる時は、少なからずとも、抵抗はあるでしょう。それは今のご両親、先生方の心を大きく揺さぶるかもしれません。お子さんの姿に動揺し、一度変化させようと試みたのに、やっぱり可哀想だから「もういいよ」と断念し、譲歩してしまうかもしれません。そうなると、余計に拘りを強固にします。
一度こだわりを外すことにしたら、一環して示してあげることが大切です。じっと、嵐が収まるのを待って下さい。そして、次にどうすればいいか、どう行動すればOKなのか、毅然と示してあげて下さい。
その内お子さんは、理性を取り戻し、指示を理解し、OKと示された行動を取られるでしょう。
OKと示された行動を取ることができたら、そこからお子さんは楽になります。さっきまであんなに抗っていたのはなんだったのか???と大人が呆然とするほどに。
こだわりを外す、崩すというときというのは、例えれば大きな壁がお子さんとご両親や先生の前に立ちはだかっている状態です。お子さんは一人ではその壁を越える力はありません。大人がしっかりと支え、ポーンと壁の向こう側に送ってあげることができれば、お子さんは壁の向こう側でスタッと上手に着地してくれるでしょう。そこは、信頼をしてあげる場面です。
大人がしっかりと信頼し、お子さんを壁の向こう側に送った時、お子さんはそれまでの大きなこだわりの壁が崩れ、自由になり、楽になって、また成長の道を前進しだすでしょう。
その繰り返しです。
その為にも、壁は低い内がいい。
できれば保・幼稚園、小学低学年からがいい。
壁を越えることに、変化に慣れ、新しいことを学び始めます。
お子さんは、本当はこだわりに飽き、もがいて、変化する機会を待ち望んでいます。
こだわりにこだわっているのは、実は大人の方なのです。
そのことに気づけたら・・・。
私たち、大人は、細かいところに気づく目と感性で、この変化したくなっているお子さんのサインやオーラをキャッチし、早急に、大局観で次の踏むべき階段を定めましょう。
変化は、節目がしやすいです。
何月になったら。
春が来たら。
誕生日が来たら。
新しい学年になったら。
入学したら。
と、大きなこだわりを変化させる時は、前もって狙いを定めた節目の前に、お子さんに話して聞かせます。
「○○になったら、あなたは△△ができるようになります。いいですね?」(三回繰り返します)
「はい」とお子さんがお返事したら、合意を得たことになります。
あとは、節目が来た時に大人がこの約束を忘れず、発動させてください。
嘘の様に、一段階段を上るお子さんがいるでしょう。
環境の変化は、古いこだわりを外し、新しいこだわりを短期間利用して、より適応した行動に近づける絶好の機会でもあります。
こだわりにこだわっているのは、実は大人。このことをどうか忘れずに、お子さんたちのこだわりを上手に崩しながら一緒に成長していって下さい。
くれぐれも、新しいこだわりもまた、定着する前に、次の行動に移すことをお忘れなく。
また、こだわり崩しの例を書いていきますね。