クリスマスの1週間前。
中之島公会堂で、プロジェクションマッピングやイルミネーションを運良く見られた日。
本命は、2時から行われたクリスマスバラエティーコンサートでした。
中之島公会堂に入るのは、この日が初めて。
なんというか、階段の手すりやドアの上部やと、歴史を感じさせる重みのあるデザインで、何とも言えず雰囲気があり、とても素敵でした。
大ホールではなくて、幾つもある中の1つ、小集会室で行われたコンサート。
ソロのギター奏者は、若かりし頃、沢山の賞を受けておられた方ですが、それを感じさせない素朴な佇まい。演奏が始まると、ギターをこれでもか、これでもかと慈しむように抱え、大事に大事に弾いておられました。あまりにも優しく、とろけるようなロマンチックな音色にうっとりしてしまいました。
バリオス:大聖堂
バッハ:無伴奏チェロ組曲第一番より
プレリュード
ジーグ
弾いておられたのはクラシックですが、その様子を見ていると、なんだか「1960年代に流行ったフォークソングを街角の喫茶店でギターをひっそりと愛でて弾いている人」というのがオーバーラップして見えてきました。
次はこの日メインのヴァイオリンです。
この方の演奏は以前にも連れられて聴きにいきましたが、とにかく凄いのです。
何が凄いかというと、まるでゼンマイ仕掛けのような弓裁き。正確無比で超高速。そして立ち位置に立つと1、2音の調整のみで余韻なくすぐに演奏に入るのです。楽譜を見る目はするどく、とても強い眼力です。ここぞ!という時に見せる気迫。
ところがこの方、とても華奢な女性でとても控えめな素朴な方なのです。そのギャップが魅力でしょうか。
まずはソロで、
無伴奏ソナタ第3番
を、息つく暇もないほどの超高速で駆け抜けました。あぁ~凄かった。
そして、次はこの日のテーマがクリスマスでもあり「ロマンス」ということで、ピアノの伴奏で、ガラリと変わって趣のあるロマンチックな曲が並びます。
夫はこの方の曲の解説が好きだそうで、私も正確無比なこの方が、どのように弾かれるかに関心がありました。
曲目は
①ベートーベン:ロマンスト長調
②スベェンセンロマンス
③ドヴォルザーク:ロマンス
④ヴィエニアフスキ:伝説曲
の5曲。
その中で私の関心は、この方が、「初めて聴いた時、人が隣で歌っていると勘違いするほど、人間味を感じる不思議な音楽」と評するドヴォルザークと、北欧の風景を切り取った様なメロディというスヴェンセンでした。
ところが、演奏が始まると、2曲目に私はこの方が書いた「人が隣で歌っている、人間味」を感じたのです。
そして3曲目には北欧の風景を。
その後、プログラムに記載間違いがあったことが分かりました。②と③が入れ替わっていたのです。
プログラムに間違いがあったのに、素人の私でも分かるようなその曲解説は、とても的確で、この一見ゼンマイ仕掛けの正確無比に見える方が、その内面にはとても女性らしい、たおやかな感受性をお持ちであることが分かります。
また初めの高速のバッハとうって代わり、正確さには違いがありませんが、滑らかで情感漂う演奏は、クリスマスに相応しくとてもロマンチックでした。
演奏を聴きながら、小さなお子さんがいらっしゃるこの方は、普段どのように練習しておられるのだろう? きっと時間の確保もままならないだろう。その中でこれだけの演奏をされるのだから、恐らくご自宅で、合間に、その時は一心不乱に練習されているのではないか?
その合間とは。例えばご主人がお休みでいらっしゃる日。幼子をご主人に預けてかもしれない。家で練習されたら、うるさい人なら文句の1つも出るかもしれない。だけど、これだけの演奏が自宅に流れるのだとしたら?もし、それほど音楽に理解がなかったとしても、それはとても贅沢な空間で、文句など、出ようがないのかもしれない。
どちらにしても、恐らくこのゼンマイ仕掛けで正確無比、しかし華奢で控えめ、素朴なこの方のご主人ともなれば、きっと同じように優しく素朴で控えめな方に違いない。と、妄想が膨らみました。
演奏後、公会堂内をウロウロしていると、バッタリ偶然にこの「ご主人」にお会いしました。夫は面識があったそうで、紹介していただきましたが。私の予想通り、優しく素朴、そして控えめな人でした。そして練習する時間がなかなか確保出来ないことを気に掛け、自宅にヴァイオリンの音色が流れることを、自分は素人だけれど子どもにも良い影響があると思う、と至って寛容なご意見をお持ちでした。
ふむふむ。そうだろう そうだろう。
と1人納得し満足した私でした。
このコンサートが、大ホールではなく小会議室だった、ということが、こうして奏者の人間性まで私達聴くものに感じさせ、相まって、より素敵な演奏会になったのだろうな、と思いました。