きらめき 綴り

療育アドバイザーとして活動しています。日々の心の煌めきを大切にしています。

きらめき療育論:全幅の信頼を置ける人が学校には必要なのだ②

前回の「全幅の信頼を置ける人が学校には必要なのだ」では、

①全幅の信頼を置ける人とはどういう人か?

②学校がどうして危険地帯なのか?

③どう対処してあげるといいか?

について、書きました。

②では、「不安の強さ」という不登校になりやすい子どもたちの多くが持っている特徴によって、

・その時の状態や不安になる原因

・子どものSOSを見逃さないための観察ポイント

・対応する上での重要なポイント

についても詳しく書いています。

 

ところで、皆さんは、不安が強い時の子どもたちはどんな様子になると思いますか?

 

前回の記事を読んで下さった方ならお気づきでしょう。

不安が強い状態のお子さんの多くは、SOSを出すことも出来ず、じっと我慢していることが多いです。

その為、気づかれにくく配慮がもらえないまま、限界を迎えて不登校傾向になっていってしまうのです。

分かりやすく、「不安だ!」と言ってくれればすぐに対処できていいのですが、本当に些細なSOSしか現れないのがこの問題を難しくしているところです。

 

ところが、更に、もっと、「不安が強い」時の現れ方として分かりにくい表現をする子どもたちがいます。

ご存知の方、いらっしゃいますか?

 

 

それは「怒る」なんです。

さっきのじっと我慢してSOSも出せない、というのとは真逆ですね。

 

例えば、普段からどちらかというと荒々しい感じのお子さんがいたとします。

働きかけても「あっちいけ」とか「ああん?」とか「わからん」といった短い返事が多いかもしれません。自分の気持ちや状況を言葉にして説明することがとにかく苦手で、そんな短い言葉を出すのがやっとなのです。

それは、どこから話していいか分からない、そもそも言っていいのか分からない、なんでこの人僕を気にするのか分からない、といった感じで、思案をするのでかなり脳に負荷がかかるといわれているためです。

 

そんなタイプのお子さんにありがちな、次のような場面を想定してみました。

 

小学3年生のお子さんです。ある体育の時間、初めての平均台に挑戦です。周りの子供たちはきゃっきゃとはしゃぎながら順番に平均台に上り渡っていきます。

そろそろこのお子さんの番が近づいてきました。

だけど、なぜだかその子はそわそわし出します。

キュッと口を結び、手も硬く握っています。

側にいる支援員の方へお尻や背中を当て、佇んでいます。

支援員の先生が、

「さあ、あなたの番が来たよ」と声をかけました。

「あんなしょうもないもん、誰がするか!!」

突然、怒り出しました。

「え?どうしたん?順番やで、さあ行くよ」

「いやや言うてるやろ!離せ!」「俺は絶対せ〜へんからな!」

「え〜、なんで?みんなやるんよ」

「あんなんやらんでも俺はできる!!!」

という具合でかなりのご立腹です。

 

この男の子は、どうして初めてでまだやったこともない平均台に上がるのを怒って拒否するのでしょうか?

 

この場合、男の子は声をかけてくれている人に対して、キツイ口調で反発し、授業の活動への不参加を表明しているわけですから、当然担任の先生に怒られることになってしまいがちです。

側にいる支援員の先生が慌てて促します。

「さあ、やるよ!」

「やめろや!」

火に油です。

担任の先生がやってきて、

「おい!支援員の先生になんて口の聞き方するんや。謝れ!」

注意しました

怒られて、注意されたら、反省して大人しく平均台に乗るかというと、そのです。余計に怒り、必死の形相で暴れて抵抗します。

 

小学3年生。みんな楽しい平均台。どうしてこのお子さんだけ怒っているのか先生方には分かりません。

「どうしたんや?」「なんでなん?」

いくら聞いても答えません。

お子さんは、怒りすぎて泣いています。怒り顔で目に涙を浮かべて。

下手をすると、関わってくれた先生や友達にパンチ!キック!ひっかき攻撃!してしまうこともあるでしょう。

 

こういう場合、「どうしたん?」「何があったん?」「なんでなん?」という声かけをいくらしても無意味です。

 

なぜなら、本人にだってうまく説明できないか、または言いたくないからです。

 

 

実は、この男の子は、平均台の高さでも、地面より高くなっている足元が不安定なところは恐怖感が出るのです。小さい頃に落ちたとか、失敗経験があるのかもしれません。または、怖さがあって失敗したらどうしよう、みんなに見られたくない!と心配しているのかもしれません。極度の不安に押しつぶされそうになっているのです。

普段の様子から、まさか平均台くらいの高さが怖いなんて、きっと周りの人は想像もつかないことでしょう。

ストレートに、「僕、平均台は怖いから嫌だ。」とか「怖いから手を貸してほしい」と言えたなら、周りからも理解され、怒られなくて済むなずなのに、このお子さんはどうしてもそれが言えなかったのです。

なのに、強く注意され、怒られ、無理強いされそうになり、大騒ぎになって人が集まり・・・とますます焦り、なんと可哀想な状況でしょうか。

学校が嫌になってしまいます。学校は怖いところです・・・。

 

「言ってくれればいいのに」

そう思われそうですが、では、このような場面では、このお子さんからSOSは出ていなかったのでしょうか?

 

いえ、出ていました。

まず、順番が近づいてきたときの「そわそわ」。

キュッと口を結んでいた

手も硬く握っていた

側にいる支援員の方へお尻や背中を当て、佇んでいた

これらは全てこのお子さんの最大のSOSのサインです。

恐らく、睨むような目で、またはチラチラと、平均台の方を見てもいることでしょう。

 

もし、この段階で、側にいた先生が気づき、次のような働きかけをしたらどうでしょう?

そっと肩に手を当て落ち着いたトーンその子にだけ聞こえる声

大丈夫だよ

と伝える。

一緒に行こうか?

手を持っててあげるよ

いかがですか?

 

躊躇いはするでしょうが、何回か優しく促せば、恐る恐る足を向け、トライしようとするかもしれません。もしその時出来なくても、さっきのような大立ち回りを演じなくても済みます。

次の体育の時間も手を貸してあげるから大丈夫だよ」

そう去り際にしっかり次への安心を渡してあげることができれば、このお子さんは次の体育の時間までずっと恐怖を引きずらなくて済みます。

あの先生がそう言ってくれたから)

と、次までに、「ようし、少しはチャレンジしてみてもいいな」なんて心の準備をしていてくれることも大いにあります。

ただし、この約束は必ず守らなくてはいけません。

もし、次の体育に側にいけないことが分かったら、速やかに代わりの支援員の先生か、担任の先生に申し送りをして、必ずそのお子さんの順番がくる前に、そっと側に行き「〇〇先生、お仕事でどうしても来れなくなったから、きちんと代わりに先生に伝えに来てくれたからね。今日は先生がいるから大丈夫だよ」と言ってもらうように重々お願いをしておくことが大切です。更にこのお子さんに、そのことを伝えておくのを忘れてはいけません。最初の先生と、代わりの先生と、両方が同じことを言うというのが大切です。

ここまでして初めて、先生たちを信頼してもいいかもと思ってくれるようになるはずです。

その後、

なんて言えばいいか分からないという場合はSSTとして「怖いんですけど」などと実際に使えるセリフを教えます。

プライドがあってみんなの前では取り組みたくない場合は、個別でこっそり練習の時間を取るといいです。

高低差への不安を軽減してあげるには、低いところから段々と高くなるとか、また低くなるといった遊具や道具を使って慣らしてあげると徐々に安心して克服することができます。

 

言葉にできない不安や恐怖気持ちなどの感情を、素早く察知し、怒りだす前にサッと対処してあげることができたら。

このお子さんはトラブルを起こすことも、恐怖に震えることもせずにすみ、安心して学校にくることができます。

 

極度に怒りっぽいお子さんの中には、このように極度に過敏で、そのために苦しんでいるお子さんが圧倒的に多いということを関係者の皆さんには知っておいていただきたいです。

 

では、このことを踏まえて、次の例です。

 

A君がブロックで遊んでいると、つい、手が隣で遊んでいたB君の目に当たってしまいました。

「あ、ごめ・・・」

と言いかけた瞬間、

「痛いやろ!!!」

急にB君が激怒して、手に持っていたブロックでガツン!とA君の頭を殴りました。

とっさにそばにいた先生が「今のわざとじゃないでしょ!、わざとじゃないのに殴ったらB君の方が悪いでしょ!謝りなさい」

注意しました。

 

さあ、このB君、あまりの激怒っぷりです。

A君は被害者。悪いのはB君です・・・か?

この場面に、強い不安を感じさせる要素は見当たりません・・・か?

 

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