5月5日は子供の日でしたね。
子供の日の食べ物といえば、子孫繁栄を願って、新芽が出るまで落ちないと言われる柏の葉で包まれたかしわ餅や、ちまき。成長と共に呼び名が変わる出世魚の鱸、鰤、鰹などが昔からよく知られています。
こういった伝統的な食べ物も、段々とこども達の家の食卓に上らなくなってきたなぁと感じます。それはどこで感じるかというと、「これなあに?」というこども達の言葉です。療育施設で今年もおやつの時間に、この「かしわ餅」を出したところ、この、「これなぁに?」「食べたことない」の声が多く聞かれました。
理由は色々あるでしょう。
例えば、
•両親が嫌い。
•祖父母が嫌い。
•本人が嫌い。
だから、食卓に上らない。
と、簡単に考えても3つには分けられますね。
では、なぜ嫌いなのか?を考えてみると
①甘いものが苦手。
②食感が苦手。
③触感が苦手。
④匂いが苦手。
⑤白い物が苦手。
⑥食べたことがない。
⑦原始反射が残っている。
⑧アレルギーがある。
などなど、意外と理由って、ざっと挙げただけでもたくさんあることが分かります。
今回はこの、かしわ餅を例にして考えを進めてみますが、お子さんの苦手な物に置き換えて読み進めてみてくださいね。
それではまずこの①ですが、これは味覚について考える必要がありますよね。単に甘いものが嫌いなだけなら、誰にでも少なからず好みはあるので、そう気にすることはありません。ところが、多くのこども達のおやつにつき合っていて気づいたことは、時々甘いはずの物を「苦い」「辛い」という感想がでることです。
「甘い」という甘味を感じてはいるけれど、「甘い」という甘味にマッチする言葉を知らないか?
または、甘味を感じておらず、代わりに苦味や塩味を感じているか?
そのどちらなのか?によって、対応は変わります。
マッチする言葉を知らない場合は、私たちが甘いと知っている食べ物を一緒に食べる中で「これは“甘い”ねぇ」と強調しながら食べることで、この味は「甘い」と言うんだ!と認知してもらうことが必要です。甘いものや塩っぱいものを並べ、甘いのはどれ?と聞くと、甘味をちゃんと感じているかどうかを確認することもできます。その上で、甘味が嫌いなのであれば、少し量を減らして軽減してあげるといいのではないでしょうか。
また、甘味を感じられないグループがいるのではという疑問ですが、これは脳性まひによって、軽度の障害が左右どちらかの半身に残っているお子さんたちの中に、甘いものが嫌いという人が多かったことから、口腔内にも麻痺による影響があって、舌の甘味を感じる部分が上手く機能していない可能性があるのではと考えました。
もしそうなのであれば、私たちの思う甘さは感じられていないのかもしれないという点を理解してあげる必要があります。ただ、その場合も、そのお子さんたちにとっては苦い食べ物も他者にとってはいわゆる「甘い」と言われる食べ物なんだということを知ってもらえるように伝えていくというのは、今後、社会生活を送ることを考えると大切なのではないかと思います。そしてそれは自閉症スペクトラムのお子さんも共通です。
さて、②③④は、感覚過敏が絡んでいることが往々にしてあります。
もちもち、ぐにぐに、にゅるにゅる、ベタベタ、或いはカチカチ、ザラザラ、といった感触は、触覚過敏を持つお子さんは苦手です。小さい頃からこういった感覚を嫌って避けてきた傾向もあるかもしれません。
普段から、粘土や砂や、スライムや、ノリ等の、手につくと嫌がる物にも少しずつ触れさせて、楽しさを教えてあげたり、手についた後、洗えば大丈夫なんだということを同時に教えていってあげることで、敏感さは持っているけれど、経験と共に慣れ、恐怖心や不快感が軽減されることが考えられます。
それは食感や匂いについても同じです。
⑤はこだわりの強さや、失敗体験が絡んでいることがあります。
白い食べ物に味がなかったとか、牛乳が嫌いだったとか、白い食べ物に拒否感が出てしまった場合、失敗体験からこだわりに移っていることも考えられます。
失敗体験は、成功体験へすり替えてあげる必要があります。
逆に、最初に飲んでいたミルクや離乳食のご飯。これらが白かった、美味しかった、などの理由から、慣れていたその白い食べ物しか受け付けないというケースもあります。
⑥は、経験不足です。
一番最初に挙げた、両親や祖父母がその食べ物を嫌いで、顕著に食卓に上らないということがあれば、必然的にお子さんは食べ物に触れる機会が減る、或いは奪われます。触れる機会が無ければ、その食べ物の味だけでなく、それに纏わる知識(食感、触感、形状、香り、イメージ)まで抜け落ちてしまうことになります。 なので、学校などの集団の場で初めてその食べ物を見た時、驚いて拒否してしまうというケースも多いです。上手く口に出来たとしても、慣れずに吐き出してしまうことも多いです。
できればご両親やおじいちゃん、おばあちゃんは、小さいお子さんがいらっしゃる時は、ご自分の嫌いな物があっても、あからさまに「こんな不味いもの」と言わずにいてあげてください。そして、お子さんが口にする機会を奪わないよう、時々は食卓に出してあげて欲しいのです。
さて、⑦の原始反射が残っている場合ですが、この原始反射についてはよくご存知ない方もいらっしゃるでしょう。
赤ちゃんは、生まれて間もなく、母乳やミルクを飲んで成長し、やがて1歳前後から離乳食へ移行します。離乳食から、固形物へ、やがて段々、大人と同じ食べ物を食べられるようになる、と、前回も書きましたが、自閉症のお子さんの中には、赤ちゃんの時にミルクを飲んでいた名残がまだ残っていて、よく噛まないと飲み込めないものとか、嫌いな物、慣れない物が口に入った時、異物として反射的に舌が押し出し、吐き出してしまうということがあります。
よく「おえっ!」と激しく嗚咽してしまうお子さんは、これにあたるかもしれません。
見ていると可哀そうに思うので、無理させたくないなと思うのですが、「未発達」なので、これもまた、時々食べる機会を作ってあげるとよいと思います。段々慣れて、異物と捉えられなくなり、食べることが出来るようになります。
さあ、最後の⑧、アレルギーがある場合ですが、これはアナフィラキシーショックを起こす可能性があるので、無理に食べさせてはいけません。お医者様の指示を受け、大丈夫と言われた物だけトライしてください。
①〜⑧まで、食を広げるといっても、様々なケースがあり、お子さんがどのケースに当てはまるのか、まずはよく観察してあげることから始めてくださいね。
⑴どのケースであっても、一番大切なのは、ご両親が
『笑顔で、楽しそうに、美味しそうに食べること』です。
⑵そして、聞こえるような声で、独り言のように、
「うわぁ、これお母さん(お父さん)大好きなんだよねぇ⤴。すごく美味しいやつだぁ⤴」とか、
「これ食べるとすごい元気に(お肌つるつるに、とっても骨が、筋肉が、強く)なるんだよね〜⤴」
「これ、すごく高くていいお菓子だ!めったに食べられないよ、ラッキー⤴」
などと、それを食べるとどんな良いことが自分に起こるかや、ラッキーなこと、その食べ物の説明など、興味をそそる内容を、面白そうに、且つごく自然に、言うことが大切です。
⑶その上で、例えばお母さんの分はなかったとして、
「え〜、羨ましいなぁ、どんな味がしたか、一口食べて教えて欲しい〜⤴」
とか、
「お父さん(またはおばあちゃん、おじいちゃん)にどんな味やったか教えてあげて〜⤴」
などと、口にしてみなければできない、口にしてみよう、と思わせるような一言を付け加えるのがコツです。
間違っても、お子さんに食べさせたいあまりに、怖い顔で迫らないようにしてください笑
⑷私のところでは、一口ルールというのがあって、嫌いで残しても、結果的にポイしてもいいけど、できるだけ一口かじっとするか、ペロっとする、ということになっています。そして、勝手にポイしないで、必ず見せに来てねと言ってあるので、みんなとても律儀に見せに来てくれます。
お皿の上に残ったお菓子を、
「あれぇ?これはどうしたの〜⤴?」と聞いてあげると、それぞれ嫌いな理由を言ってくれます。
「そうかぁ、甘いの嫌いなんだぁ。じゃあ、一口パクっとするだけでいいよ。」
「え?やだ?どうしても?じゃあ、しょうがないなぁ、カジカジっとかじるだけは?」
「え?それもできない?うーん。じゃあ、ペロっとしたらもういいよ😀」
と、段階に分けて落とし込んでいきます。
こども達は、大嫌いな物なのに、段階を踏んで軽減されているので、とても楽になった気がして最後はペロリ!としてしまいます。
⑸ペロリとしたら、しっかり認めてあげてくださいね。
そして、
⑹「今度はカジっとしてみようね♬」
と次に繋げて下さい。
⑺こだわりや、失敗体験などで強固なものは、魔法の言葉をかけてあげます。
「〇〇さんは、誕生が来たら(〇年生になったら、クリスマスが来たら、お正月が来たら•••etc)食べられるようになります。いいですね?」と3回言います。こどもさんが「はい」と言ったら、約束成立です。約束した節目が来たら、忘れずにこの魔法の言葉を再び言ってください。あとは、信頼して待ちます。
⑴〜⑺の方法を組み合わせていくことで、お子さん達は、やがて少しずつ嫌いな物を口にするようになり、それによって味覚などの発達が進みます。そしてそのうち、
「あれ?なんか美味しい」
と言う日が来ますよ。
こども達は成長し変化します。
変化するチャンスを、諦めずに与えてあげてください。
食は、活動の取り組みと繋がっています。
見知らぬ物、嫌いな事を、受け入れ、トライしてみるという点で共通しているからなのでしょう。
食が広がれば、集団活動などの目新しいものへの取り組みも広がります。
だから、早めの取り組みが大切です。
ただし、発達が進むには時間がかかることが多いです。少しずつ長い目で根気強く関わってあげてくださいね。
「きっと食べない」
⑻番目の方法は、この大人の思い込み、こだわりを崩すことです。