昨日の夕方、用事があり、娘を乗せて車を奈良に走らせた。
15時頃は、遠くに見える梅田の摩天楼の上で閃光が光っているのが見え、徐々にこちらに向かって雷が近づいてくるのが分かった。
雷鳴と稲光が2時間近く空を牛耳っていて、窓の外は一面何とも言えないベージュ色に。まるで砂漠の砂嵐にあっている様だった。そう言えば昔、中森明菜の歌に「SAND BEIGE 砂漠へ」というものがあったっけ。
雨雲レーダーでは、すでに奈良は雨雲が抜けていた。予定ならもっと早く出発する予定だったけれど、それだと奈良で雨に打たれていたかもしれない。遅れて丁度良かったのかも。
タイミングを見計らって、17時頃、高速に入った。
ところが、出発が遅れた分、今度は帰宅ラッシュにあう。約1時間で行けるところ、2時間かかった。
これなら、地道で行った方がよかったな、、、などと考えながら、忍耐強くノロノロ進む。
羽曳野を過ぎた辺りで、ようやく道が空き出した。いつもならもう目的地辺りにいるのに、今回はまだあと1時間かかるとな?19時には目的地の一つの店舗が閉まる。駆け込みだな、というくらいスレスレだ。
奈良に入ると、見渡す限り平地で、それを取り囲む見慣れた低い山々が見えてきた。
これこれ、これが奈良の良いところ、、、などと奈良に住む娘のところに仕事を抱えながら通ったこの2年の月日を懐かしむ。
最初はあまりに何もないことに衝撃を受けた。どうしてこんなところに来なければならなかったのか、、、と娘を不憫にも思った(娘が好きで移住したのだけれど)。ところが通ううちに、この奈良の魅力にハマってしまった。それは思うよりも早かった。
奈良の魅力の一つに、やはりこの平地がある。周りを低い山に囲まれた典型的な盆地。住宅地は田畑や空き地の中に点在している。今の時代から見ると、それは単に「何もない」ように見えるけれど、頭の中の時代チャンネルをパチパチと奈良時代辺りに合わせれば、まほろば(優れた良いところ・素晴らしいところ)と古事記の中で謳われただけあって、この緑の山に囲まれ、実り豊かな田畑が広がる、栄えていた奈良の都の姿が、今の風景にオーバーラップして見えてくる。
その風景を見ているだけで、私の頭が悠久の時を超えそうになる快感で溢れそうになるのだ。
さて、そうこうするうちに、車は正面に天香久山を見据え、真っ直ぐな道に入る。
天香久山といえば、無論、万葉集や百人一首で詠われているあの(あまのかぐやま)だ。
18時35分頃、周りを見渡すと、日没間近の雨上がりの空は、ほんのりと淡い紫だった色をしていた。車のバックミラーを見ると、リアウインドからは眩い金色の夕焼けの光が差し込んでいるのが見える。
右手には、平地を囲む山々に雲海のような雲が浮かんでいる。
さっきも書いたように、奈良の山々は標高があまり高くなく、穏やかな表情で平野を囲んでいる。
雲海ができる様な高さではないと思うけど、白く薄い雲が、長く山の中腹辺りに幾重にも漂っている。それが淡い薄紫の空と相まって、なんとも言えない幻想的な風景を見せていた。
こんな風景を他所で見たことがあるだろうか?
ただ、平地が広がり、それを取り囲む低い山々に薄い雲がかかっていたからといって、ここまで幻想的に見えるだろうか。
何度も何度も、淡い薄紫の空と山にかかる雲海のような雲を眺める。勿論安全運転をしながら、、、。
そして、気づいた。
この「幻想的」だと思っている光景が、なぜ、他所では見たことがない、と私に思わせるのか?この「幻想的」という言葉は「夢を見ているような」という意味が含まれる。どんな夢なのか?
それはやはり、「奈良時代にタイムスリップしたような」ということになるのだろう。どう幻想的かと言うと、「雅(みやび)」なのだ。
今見ているのは現在の奈良の姿なのに、空の色と雲の様子が変わるだけで、一気に雅な世界に変わってしまう、この奈良という土地の持つ凄さに親子で圧倒された。
雲海のような雲は、おそらくそれまでに山々の上に降った雨が夕刻の太陽の光に照らされて、水蒸気となって放射霧となったものなのだろう。盆地ではこうやって雲海ができるそうだ。
その雲海、遠目に見ていると、まるで天女の羽衣が山々にふんわりとかかっているかのようだった。
「春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山」
これは、夏になると天香久山に真っ白い衣を干すらしい、というような内容のようだが、私には、この日見た雲海が、まるで天女の真っ白い羽衣のように見え、それが白妙として夏の奈良の青々とした山々を背になびく光景とオーバーラップして見えた。
こんな見事な風景を見せてくれる奈良。
良いところに娘はお世話になったな、とつくづく感謝した。
写真には、見事な淡い薄紫色と雲海が上手く撮れないけれど、、、。
奈良には超リッチなホテルが誕生したそうだ。
奈良に宿泊する人は少なく、貢献できたらとニュースで言っていた。
意外と奈良には見所がいっぱいある。
時を忘れさせる雅な古都の姿は一日では満喫しきれない。
みんな、奈良に泊まって、身も心もリフレッシュしよう。