夫が今の会社に転職してから8ヶ月。初めてのクリスマスを迎える。
数日前、ホクホクとした表情で帰宅して、何やら嬉しそうにして、手に持つものを見せてくれた。
それは可愛い小さな四角い箱で、サンタクロースがソリに乗り、夜空に駆け上がる絵が描かれている。
どうやら、取引先の海外のメーカーから、一人ひとりへのクリスマスプレゼントとしてチョコレートが贈られてきたそうだ。
オーストリアはザルツブルグのチョコレートで、上品なプラリネだった。
一人に一箱ずつとは・・・と感心しきり。
思わぬ素敵なプレゼントに2人して喜んだ。
数日後、
更にホクホクしながら帰宅した夫は、またもや何かを手にしている。
今度は前よりも少し横長の四角い青い箱と、やや緑がかった丸いボトル。
前回とは違うメーカーだけれど、偶然にも同じオーストリアのザルツブルグからのクリスマスプレゼントだった。
青い箱は表面に美しい絵葉書サイズの絵が乗っていた。
ザルツブルグの街並みだろうか。
冬のヨーロッパの、建物に雪が積もっている光景が描かれたイラストは、行ったことがない私にとって異国情緒に憧れを感じさせるのに充分だった。
中は、こちらもチョコレートで、大きな丸い粒が銀紙に一つ一つ包まれ並んでいる。
表面には男の人の横顔が描かれていた。
モーツァルトだ。
夫はクラシックが大好きで、中でも華やかで軽やかな明るい曲調のモーツァルトが好きだから、余計にこの贈り物には心ときめいた様子だった。
もう一つ、緑がかった丸いボトルは白のドイツワイン。
なんと、こちらも一人に1本ずつ。
なんと太っ腹なのだろうか。
嬉しすぎる贈り物だ。
でも、何よりも心踊ったのは、そのどちらのチョコレートにも直筆で宛名が書かれていたことだった。
一つは側面に。一つは小さなクリスマスカードに。
「MR.〇〇」という風に。
年の瀬になると日本では、昔からお世話になった方々にお歳暮を送る風習がある。
クリスマスにプレゼントを送ることが日本でも定着しだしたのは大正時代からだそうだ。
今はもうお歳暮を送ることも無くなったけれど、送っていた頃は百貨店で送り状を書くだけになり、それも今では印刷だから、届いた相手にとってはそれを目にしたところで、必要以上に何かを感じることはないだろう。
会社へのお歳暮やクリスマスの差し入れとしていただくものも、大半は「皆さんで分けてください」といった趣旨の詰め合わせではないだろうか、と思っている。
海外から、わざわざ取引先の担当者当てに一人一人名前を手書きして送ってくれるその手間を思うとき、日本のお歳暮のように仰々しく大層ではないけれど、それだけで嬉しい。異国の人が書いてくれたその文字からは、温かみを感じた。
それが一番の心温まる贈り物だったかもしれない。